【夏休みの宿題】『ヴィヨンの妻』を読んで
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久しぶりに,Jブンガク掲載の近代文学を読んだので,感想文を書いてみた。
ま,夏休みの宿題には役立たないが,ご愛敬と言うことで。
15世紀のフランスの詩人フランソワ・ヴィヨン。
この詩人の名前から,「ヴィヨンの妻」というタイトルになったらしい。
太宰治を読むのは,2回目くらいかと言う私。小学生の頃に読んだ『走れメロス』以来か。
あの本を読んだ記憶ももう,彼方に行ってしまい,かつて,アニメーション映画化され,その主題歌に小田和正が起用され,驚いたくらいだ。
今回の,『ヴィヨンの妻』は,太宰治お得意の女性視点による一人称表現ということだ。
この女性視点による文脈。太宰を知らない人にとっては,まるで女性が書いたのではないかと思うほどに女性的な文脈。いや,女性ではなく男性が書いたのだから,ここまで,変なたとえだが,なよなよっとした文章になるのだろうか。
戦後まもなく。
詩人の夫,大谷が真夜中に帰宅した。そこへ,借金を督促にした飲み屋の夫婦。大谷は,刃物を向け,ひるんだ隙に逃げていった。取り残された,大谷の妻,佐知と飲み屋の夫婦。
ナイフを振り回すきっかけとなった話を聞く佐知。
飲み屋でさんざんに飲んだあげくにツケにし,挙げ句の果てには,ツケも払わず,飲み屋の売り上げ五千円を盗んでいった大谷。話を聞いて,あまりの破天荒さに笑い出した佐知。
翌日,飲み屋乗り込んで,借金の返済のため働き出す佐知。
飲み屋には2日に1度,大谷が飲みに来てくれる。それだけで嬉しい佐知。
正直,ここまで,馬鹿正直に大谷を愛し続ける佐知は何者なのだろうか。
私には,相容れないものがある。
飲み屋でツケにした上,さらに,売り上げまで盗んでいく大谷。大谷に一言も文句を言わず,ついて行く佐知。私だったら我慢の限界。すぐに大谷とは縁を切って,逃げ出す。
物語を読み進めていくと,佐知は「椿屋のさっちゃん」と言われるほど,飲み屋ではお客に親しまれる存在となる。ここまで人に慕われるような性格なら,大谷を捨てても,十分に着ていけるだろうし,再婚もできるはず。にもかかわらず,大谷について行く佐知は,いったいどんな人なのだろうか。
それとも,大谷自身に,人の心を引きつける魅力があるのだろうか。
佐知の勤める飲み屋に,何度となく訪れる大谷。そのたびに連れてくる女性が変わるという。それだけ,女性にもてるのか。なるほど,その魅力に佐知も引きつけられるのか。
いや,待てよ。大谷の連れてくる女性は,頻繁に変わる。それは,女性が大谷を捨てるからではないか。大谷の金に対するルーズさに女性が嫌気を指し,大谷を捨てているのではないか。
だから,金づるとなる次の女性を,大谷は探し求めているのではないか。
にも関わらず,佐知は大谷を慕い続けている。佐知には,大谷の借金を肩代わりするだけのお金もないはずなのに。
やはり,大谷は佐知のことを好きなのだろうか。
大谷と佐知,二人の間について,直接の会話やふれあう場面は非常に少ない。それでもなお,二人が引かれ合うのは,私のような人間には合点がいかない。
まだまだ,私は,男女の仲については,初心者なのだろうか。
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