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【Jブンガク】『松子夫人への手紙』谷崎潤一郎<英語版>

09/05/08 Jブンガク より
『松子夫人への手紙』谷崎潤一郎

 「御主人様,どうぞどうぞお願ひでございます。御機嫌を御直し遊ばし下さいまし。」


 「恋文」」のテーマで紹介する最後の手紙は,唯一実際に書かれ,郵送され,受け取られたものです。
 つまり,本物のラブレターであり,1932年に谷崎潤一郎が将来の妻・松子にあてた手紙です。
 多くの作家が鮮烈な手紙を書いていますが,この手紙は特別です。
 谷崎が美女を誘惑している一方で,実際にどのように小説を執筆していたか分かるのです。


     *     *     *


 明治から昭和にかけて活躍した文豪谷崎潤一郎。『松子夫人への手紙』はそれぞれ別の相手と結婚していた時期に谷崎が松子へ宛てた恋文である。
 昭和7年10月7日。ご主人様,どうぞどうぞ御願ひでございます御機嫌を御直し遊ばしてくださいまし。たった一言「許してやる」とだけ仰つしやつて下さいまし。一生私を御側において,御茶坊主のやうに思し召して御使ひ遊ばして下さいまし。
 終始へりくだって,松子の許しを請うている谷崎。一流の女性崇拝が遺憾なく発揮されている。
 谷崎は40歳代の後半からおよそ10年間で20通ほどの手紙を松子に宛てた。


     *     *     *


 ご紹介した中で唯一の実際の手紙なのにまるでフィクションのような印象を受けます。手紙の書き出しは「御主人様」と始まります。
 松子は谷崎に対して怒っていたようです。理由は定かではありませんが,谷崎は許しを乞い彼女の写真の前で祈っています。どうやら,彼は彼女の家を出て,その後,この手紙をしたためたようです。
 松子は谷崎の心が固まっていないと感じ,彼に対し立腹してしまったのです。そして,なんと彼に泣いて見せるよう求めたのです。
 これが事実か否か定かではありませんが,文中に「あなたが泣けと言うなら泣こう」というくだりがあるのです。彼は松子に対しまるで家臣のように従属的になってしまったのです。
 松子と当時執筆していた小説『蘆刈』のヒロインとの間に密接なつながりが見られます。このヒロインは松子だとしばしば言われております。ですが,松子のイメージを小説のヒロインから組み立てたとも考えられるでしょう。
 つまり,小説とこの手紙の間に太いパイプが通っていたのです。そのどちらが谷崎にとってより大切であったかは分かりません。
 松子はとても聡明で美しい女性でした。谷崎のこうした姿勢を彼女は見通した上で彼を許したのだと思います。むしろ,真の彼の姿,彼の芸術に対する真摯さ故に谷崎を愛するようになったのだと思います。だから,この芸術性も許せたのでしょう。

一刀両断 「御機嫌を御直し下さいまし。」

 彼は松子に「御主人様」と呼ぶなどマゾヒストな仮面を被り,捨て身な態度です。松子がどのように応じたかは不明ですが,谷崎の小説が二人の間に交わされた手紙により,さらに深いものになったことは確かでしょう。
 谷崎は映画製作や脚本も手がけていました。彼は二人の書簡のなかにも小さなドラマを作り上げたのでしょう。とても興味深いことに,著者のエゴと実在する女性に対する情熱を垣間見ることができるのです。

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