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【Jブンガク】『或る男の恋文書式』岡本かの子<英語版>

09/05/07 Jブンガク より
『或る男の恋文書式』岡本かの子

 「夢中で走りながら,まだこゝろのなかで,はっきり意識したことがありましたの」


 今回は短編小説をご紹介しましょう。岡本かの子著『或る男の恋文書式』1927年に出版されました。
 これはある女性が愛する男のもとを去る際に一気に書きあげたラブレターです。最後にどんでん返しが待っていますよ。


     *     *     *


 昭和2年に発表された『或る男の恋文書式』。作者は岡本かの子。
 与謝野晶子に師事した歌人・小説家である。
 書き出しは,あの夜,あなたと別れてから私は夢中で走ってゆきました。あなたの姿を見てしまっては,離れるのがもっとつらくなりそうだから。
 相手を思う切ないまでの心情がつづられている。
 しかしこの手紙,ふられた男性がこんな手紙がほしいと女性に送った,恋文の模範書式なのである。
 巧妙な仕掛けのなかに女心の陰翳があぶりだされた作品である。


     *     *     *


 心の流れのまま物語は進みます。彼女は闇の中,別れたくない男の下から思いを断ち切れぬまま逃げ出します。目に涙を浮かべた彼の視線を充分に感じながら。まるで連続映画かダリやマグリットの絵画を見ているかのようです。

 「夢中で走りながら,まだこゝろのなかで,はっきり意識したことがありましたの」

 手紙の最後にどんでん返しが待っていましたなんと手紙の本当の作者は,美しい女性に弄ばれた,とある男性だったのです。そして,この女性が手紙を手に筆者を訪ね,その内容と彼の行いの気味悪さを訴えたのです。振り向いてもくれない女性が自分にこのような手紙を書いてくれることを望む。読者が読んでいたのはそんな彼の作品。
 つまり,結ばれることのない相手に対する彼の妄想です。読み始めは,男の愛を信じる少しおかしな女が夜中に走り回っているかに感じ,後に実は作者は女性にこのような態度を取って欲しいと切望する男であることが発覚する。さらに,手紙はかの子のもとに持ち込まれたものだと分かり,彼女が作者ではないことが明らかになる。
 様々なレベルで語られ,レースカーテンのような繊細さが作品を現代的にしているのです。同時に作品は読者に超現実的な読書体験を与えます。


一刀両断
「何といっても昨日はうれしい夜でした」


 彼女は最後にまるで一滴の媚薬を垂らすかのように手紙を書き終えます。「何といっても昨日はうれしい夜でした」と綴っているのです。いかに過ごしたかは曖昧に書かれていますが,手紙であればそれも適切なことでしょう。
 さらに,後に作者は女性のふりをした男であると分かるのですから可笑しさすら感じます。
 岡本かの子は伝統的な日本の書簡体小説の最後尾に立っていました。おそらく,かの子は昔の手紙などを書写することで読み書きを覚えた世代でしょう。ですから,この短編は伝統に対するパロディーとも感じられます。
 この時代の読者にとっては,とても力強いパンチの利いた作品だったのではないでしょうか。

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