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【夏休みの宿題】『文鳥・夢十夜・永日小品』を読んで

 夏になると,毎年,本を読むペースが落ちる。
 汗っかきの私にとって,暑い中,汗を流しながら,本の頁をめくるというのはちょっと苦行に近い。
 しかし,今年,なぜか,本を読みたくなった。
 それも,文豪と言われるような人の書いた本を読みたくなった。何を読もうか,考えたところ,『理想の国語教科書』(齋藤孝・編)の中から,一冊読もう。そう思いついて,古本屋へ行って,一冊の本を買ってきた。
 夏目漱石・作『文鳥・夢十夜・永日小品』。105円。
 古本屋,今流行りの,BOOK何とかという古本屋では,夏目漱石の本はほとんど見かけない。この本もたまたま見つけただけ。別に他の作者の本でも良かった。しかし,『理想の国語教科書』の最初に取り上げられた,この作品は,私の胸にずんと響いた。こんな作品があるんだ。初めて知る夏目作品だった。
 その「夢十夜」を含むこの本。全てを読むというわけにはいかず,「今日に着ける夕」,「文鳥」,「夢十夜」の三作品を読んだ。

 ★ ★ ★

 「汽車は流星の疾きに,二百里の春を貫いて」で始まる「今日に着ける夕」は,正岡子規への追悼を込めた作品。文中,「子規」という言葉が出てくる度,以前訪れた子規庵が思い浮かぶ。
 子規庵の,子規が寝ていたとされる和室からの庭の風景が思い浮かぶ。
 ほんの小さな庭だ。畳6枚分もない小さな庭。しかし,その庭が,病床の子規が見ることの出来る世界のすべて。春夏秋冬,四季の移り変わりは,もう,ここでしか感じ取れない。

 漱石と子規は,若い頃,一緒に京都を訪れたことがある。夏みかんを頬張りながら,碁盤の目のような京都の街並みを,漱石と子規は,そぞろ歩いた。
 亡くなって数年が経ち,漱石は高浜虚子と共に,京都を訪れた。そこここに子規と一緒に訪れた際の思い出が蘇る。「ぜんざい」の看板を見て思いだし,京都の寒さを感じて思い出し……。漱石にとって子規の死は,やはり大きな出来事だったのだろう。
 淡々とした文章ではあるが,彼への鎮魂の思いがこもった文章だった。

 ★ ★ ★

 三重吉に鳥を飼いなさいと言われ、文鳥を飼う羽目になった漱石。始めは面白がって,朝鳥かごを出し,夕には鳥かごをしまっていた。水をやったり餌をやったりもした。しかし,そのうちに,面倒になりやらなくなった。
 すると,下女が気を利かせて,かごの出し入れや餌やりをしてくれるようになった。しかし,つい,餌やりを忘れたばっかりに,文鳥は死んでしまう。
 漱石は下女を責める。下女は,黙って亡骸を庭に埋める。

 元はと言えば,漱石が自分で面倒を見ないのが悪い。本人も分かっていた。しかし,つい,つい,という甘えからいつの間にか,世話を下女に任せ,その死も下女に押しつけた。
 文章の中の漱石は,少々,いや,だいぶ我が儘である。面倒だからとかごの出し入れを止めたり,そうかと思えば,気がつくと餌をやったりする。そのうち,下女が面倒を見てくれるのだからと,自分は何もせず,ただ,その鳴き声を聞くだけ。
 ただ,文鳥が亡くなったとき,自分の無責任さを多少は自覚しているようにも思えた。文鳥が死ぬ前,最後に生きている姿を目にした際,「胸のところが少し膨らんで,小さな毛が漣のように乱れて見えた。」と冷静に観察している。このとき,変化に気づいて何かアクションを起こしていれば,自分の反省とも見て取れる。

 あの時,何かしていれば,そんな反省が感じ取れる反面,責任はすべて他人へと転嫁しようとしている。人間の脆さ,弱さを感じる文章だった。

 ★ ★ ★

 「こんな夢を見た。」
 夢だから,という言い訳でどんな話でも片が付けられてしまう。それはそれで仕方がないが,夢である以上,どんなに荒唐無稽な話でもかまわない反面,創造性豊かな話でないとつまらない。
 道ばたで猫を拾った,という話にしても,その猫が普通の猫だったら,夢でも現実でもどちらでもかまわない。しかし,その猫が人間の言葉を喋るとなると,夢物語へとつながっていく。

 『夢十夜』のそれぞれの話は,短く,かつ創造性に富んだ内容。明治期に生きている運慶の話と思ったら,神代に近い昔の話だったり,船に乗っていたかと思えば,寺の中で悟りを開こうとしていたり。
 どの話も興味深く,息をのむ話。極上ワインの最後の一滴を飲み干したような,達成感というか満足感が広がる。物語に「なぜ」と疑問を返してはいけない。それはすべて夢なのだから。

 私の好きな話は第二夜。悟りを開かねばならぬ侍。時計が次の刻を告げるまでに開かねば,自分には死が待っている。悟りは開かれずに,焦りだけが先を行く。読んでいても,手に汗を握る。そして,あっけない結末の一文。想像の広がる文に,何度も同じ文を読み返してしまう。

 久しぶりに,しっかりとした腰の据わった文章を読んだ気がする。こんな文章と今まで会えなかった自分が悔しい反面,知ることの出来たことに感謝。

 ★ ★ ★

 たまたま,古本屋で,買うことの出来たので感想文を書いてみた。
 この手の,文豪の作品,それも文庫は,あまり古本屋で見かけることは少ない。買うことが出来たら,読むことが出来たら,感想文を書く気があったら,という条件付きで,今月,読書感想文を書いていきたい。

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